フェミニズム読史会

フェミニズム読史会の「過去の読書会」ページです。

第28回 「不可視化」されてきた人々を語る大切さ~オーラルヒストリーのもつ力 - 『占領下の女性たち――日本と満州の性暴力・性売買・「親密な交際」』読書会

※第15回~は読書会の議事録を公開用に再編集したものを掲載します
※トップページからご覧になっている場合、「続きを読む」をクリックしてご覧ください

選書の理由

  • 前々から読書会のブックリストに掲載していた。また、アジア・太平洋戦争における性暴力について学ぶ機会がほしかった。

感想

  • 今までこの読書会で読んできた本の中で、一番つらい本だった。前半を読んでいるとき、きつくて一旦読めなくなった。
  • 「敗戦直後に初閣議で『性の防波堤』の必要性を確認」という部分。終戦の二日後にシステムが作られたことに驚いた。
  • 3章 開拓団 一つの集団 個々の人間に焦点を当てるの難しいとは思うけど、この本のように一次資料やオーラルヒストリーを使うと、一人一人の声が残る また、同じ女性の中にも色々な人がいたということが分かる
  • 自分と近い年齢の人たちが差し出されていた。自分もこの時代だったら巻き込まれていたかもしれない。平井和子さんのニュース記事で「占領下・戦後史を知らない世代に伝えていくとき、男子生徒だと共感できるところが少ないかもしれないけど、女子生徒のほうがより理解しやすい」と言及されていた。まさにそう。
    https://www.excite.co.jp/news/article/Cyzowoman_242364/
    • 朝霞にいた「マスコット・ボーイ」という米兵たちの性的相手も含むおもちゃ的存在について。ジャニー喜多川朝鮮戦争に従軍していたと言われる。「男子生徒だとピンとこない」というのも問い直していかないと。
    • 軍で被害を受けた少年が、長じて加害側にまわることもある。
    • 男性の性被害は女性以上に語りにくい。
  • 一番印象に残ったのは主体的エージェンシー(p95)という言葉。この言葉は重要なんじゃないかなと思った。
  • こういう戦時下の大きな暴力の現場では、二者択一で考えてしまう発想に陥りやすくなる。リスクをとってでも、よりマシな方を…という選択肢をとる。マスキュリニティがあるなかで選ぶのが印象的だった。
  • とっさの機転で難を逃れた下り。おかれた状況がどんなに絶望的でもなるべく良い選択肢をとっていく、一人ではなく集団でその選択肢をとる。その姿すごい。工夫をこらして抵抗を見せることが大事。
  • ハニーさんの章。文献や証言から紐といてきたことも大事だけど、それだけで全ては語り切れない。その場にいた人が見てきたことがここに詰まっている。
  • 性暴力の連鎖。性欲を満たすのではなく支配欲。見せつけのためにやっている。
  • 「女性側の隙がレイプの原因である」という落ち度論は今もある。あまり関わりがないと思っていたけれど、落ち度論の始まりの流れの中に戦時性暴力がかかわっている。根深い価値観。
  • 「差し出される女性」と「守られる女性」に二分化されてしまっていた。
  • 現代だと、子どもの目からセックスワーカーが見えないようにする。でも、金ちゃんの記憶の通り、子どもたちが「差し出される」女性を見ていた。子どもと「差し出される」女性たちの距離が近かった。自ら「差し出す」女性の話はお涙頂戴の話にされがちだけど、事実は違った。強制される力が働いていた。子供たちが「差し出される」女性やパンパンを身近に感じていて、可視化されていた。それが、のちの時代になると隠されてしまった。性に関わる女性が歴史から削除される。
  • 涙なしには読めない本。読んでいくうち、特に満州のところなど、自分もかなり感情がこみ上げた。これほどまで大変なことが起こっていた。事細かに書かれており、その情景がありありと浮かんでくる。これほど感情を揺さぶられる本はなかなかない。多くのオーラル(証言)を得て研究されており、一つ一つの言葉に重みがある。今まで読んだ社会史の本の中で一番だと思った。一人一人の声を大事にして紡いでいき、一つの本にまとめる。著者の平井さんだからこそできたこと。人々に訴えかけるような、感情を揺さぶるようなタッチ。
  • 最近、著者の平井さんが登壇した講演会の質疑応答の中で、次のような話があった。今もガザなど紛争地における性暴力が起きている、現在進行形で人々が亡くなり、暴力を受けている。女性たちにどういうことが起きているのか、どういう苦しみがあるのか、現在進行形ではなかなか証言が取れる段階になく、想像することしかできない。直近の記憶は鮮烈だから語れない。こういう場合にこちらが想像する際、こういう本が手がかりになる。戦時下の女性がどういう立場におかれるのか。今起こっていることと過去をつなげる、大事な本にめぐりあった。
  • アジア太平洋戦争の「戦後」は「廃墟から日本人は立ち上がった」というサクセスストーリーの形で回収されてしまう。戦争が終わればハッピーという印象がもたれてしまう。
  • 赤線地帯などの話は戦前の慰安婦制度と地続きだった。もともと慰安婦として戦地に行っていた人たちが戦後も米兵の相手をさせられた。戦前の性産業の在り方がそのまま戦後にも引き継がれている。地続きの問題。
  • 読んでいて本当につらかった。「差し出された」という、無理矢理。戦争は終わったあとが大変。支配していたから反感もすごい。そこにいるのが危険だというのが伝わってくる内容。集団自決の考えも、日本は近代化しても思想は江戸時代のままだった

オリジナルサブタイトル

読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。

  • 「性の消費」を当たり前にする暴力の連鎖(justmidori)
  • 「不可視化」されてきた人々を語る大切さ~オーラルヒストリーのもつ力~(Kimiko)
  • 占領下の性暴力と性売買――主体的営為(エイジェンシー)とホモソーシャル(ノビツムリ)
  • 忘却されてきた性売買女性(berner)
  • 終戦後も続く「戦争」(アズシク)

概要

  • 開催日:2023年10月
  • 選書担当:アズシク
  • 議事録作成担当:アズシク
  • 標題作成:Kimiko