※第15回~は読書会の議事録を公開用に再編集したものを掲載します
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選書の理由
- 学術界は男性主体の世界。これまでにもジェンダーギャップや「どのように女性研究者が参入していくか?」については議論されてきたが、なかなか進んでいない。男性研究者である自分自身もこの4月から理系の大学で働くことになっているが、理系分野における女性研究者の比率は特に少ない。なので改めて学術界におけるジェンダーギャップについて学びたかった。
- 歴史学ではどうか。自分の研究分野には女性研究者も多いが、とはいえ子育てなどのライフイベントが理由で女性研究者が諦めなければいけなかった場面は自分自身も見てきた。特に日本史では男性優位。
- 歴史学研究会では、若手研究者問題がずっと問題視されてきた。その流れで「ジェンダーギャップについても考えよう」ということで、この本が出た。ちょうど調査結果が出た時期と、歴史学研究者の間でのジェンダーギャップ解消への機運が特に高まった時期が重なった。それがこの本の出版につながった。ジェンダーギャップ解消への第一歩。
感想
- 質問;大学や学会などで自分自身が感じた・見聞きした女性差別はある?
- 女子大出身なので、大学で学生として感じたことはない。
- 研究者間、あるいは大学の職員間でのハラスメントを目の当たりにしたことがある。
- 学生時代、男子学生がサークル室に(無断で)泊まり込んでレポートを書いていたことがあった。男女間で「無理できる範囲」が違う、というのを感じた。
- 女性研究者のキャリア形成について
- 女性研究者の場合、出産などのライフイベントが発生するためなかなか計画通りにはいかず、博士号取得が遅くなるというデータがあった。自分の身近なところにも、60歳を超えてからようやく博士号を取れたという女性研究者がいる。博士号がなかったのもあり、子育て中は非常勤しかできなかったらしい。女性研究者のキャリア形成は大変だなと思った一方、50-60代で専任になれる・博士号を取れるという点ではあまり悲観的にならなくてもいいのかなとも思った。
- 働きながら学位を取る人は多い。自分の在学中も、博士後期課程に50代の女性がいた。その先輩たちは「学び直し」のニュアンスが強かったけれど、逆にいえば50,60代にならないと学び直しの時間が取れないということでもある。
- 自分の知ってる女性文学研究者で「博士課程満期取得退学のため学位は修士のみ」という人がいる(年齢は60代)。以前は「文学研究だから満期取得退学は珍しくないよな」という認識でしかなかったのだけど、これを読んで、もしかしてライフイベントが理由で博士は取れていなかったのかもしれない、と思うようになった。
- 自分が通っていた高校には、社会人の大学院生で、『研究したいことがあって高校に来ました。』という方がいた。その方は、高校で教鞭をとっていた女性の先生だった。女性の大学院入学者は中高年が多い、というのは自分の実感としてもある。
- 女性研究者の場合、出産などのライフイベントが発生するためなかなか計画通りにはいかず、博士号取得が遅くなるというデータがあった。自分の身近なところにも、60歳を超えてからようやく博士号を取れたという女性研究者がいる。博士号がなかったのもあり、子育て中は非常勤しかできなかったらしい。女性研究者のキャリア形成は大変だなと思った一方、50-60代で専任になれる・博士号を取れるという点ではあまり悲観的にならなくてもいいのかなとも思った。
- 学術界や歴史学研究界だけの問題ではない
- 出産してからの自分の話がこの本にまとまっている、と思った。出産後、自分は職場でパワハラを受けた。それが理由で退職して、今はパートタイムで働いている。非常勤で働く女性研究者が多いなど、自分の状況と重なるところが多い。アカデミアだけの問題ではない。
- 歴史学は現実社会と密接に繋がっている
- アカデミックな場と「学び続けたい」人を繋ぐことが、若手研究者問題や女性研究者のキャリアの問題にも関わってくる
- 女性研究者がキャリアを諦めなくてもいいようにするためには、多様な研究のあり方を模索することも必要。大学に残らなくても研究を続けたい人、アカデミックな場につながっていたい人はたくさんいる。うまくそこを含んだ議論ができるといい、という部分について。
- アカデミックな場にいなくても、歴史研究に関わっていたい人、歴史を通して学び続けたいという人はいるはず。この読書会自体がそう。研究者だけの読書会ではなく、「学び直し」メンバーもいる。その部分を繋げていけたらいい。
- 自分の場合、これまで小中高大と進むにつれて男性の教師のほうが多くなっていった。特に社会科の教師は男性が多い。歴史に興味がある女性は多いのに、その分野を職業として選んでいる女性は少ない。
- 「女性歴史学研究者」という言葉に自分は初めて出会った。今までこの言葉に出会わなかったことを意外に思った。
- 認可保育園に入るためのポイントには、親の就労状況が関係してくる。大学院生や非常勤の講師と、フルタイムの勤め人では、どうポイントが変わってくるのか。研究者は考えるのが仕事なのだから、点数化はしにくいのでは。
- 自分はまだ学部生なので、歴史学研究会も身近ではない。また、研究会は社会とも身近ではない。自分自身、研究会はもっとクローズドな空間だと思っていた。
- 歴研内部がどうなっているのか、外からは確かに見えにくい。歴研自身も内部の状況をあまり外に出してこなかった。そのことへの反省もあって、内部の状況(女性研究者が直面している困難)を可視化するためにこの本ができた。
- 研究会と社会のとおさについて。自分は学生でも研究者でもなく、会社勤めをしている。興味を持った学会に行ってみたいと思うことはあるけれど、参加申込書の肩書になんて書けばいいのかわからなくて困ることがある。
- 高校生の頃、進学先を決める際、夢ナビというウェブサイトで研究者の話を読んでいた。ちょうどコロナ禍だったこともあり、当時オンラインで開催された学会を視聴することもできた。自分が高校で学んでいたことと研究の世界を結びつけて考えることができて、モチベーションになった。
- 今まで扱ってきた書籍では男性・女性が議論をしているという形式を見なかったので、(男女が議論している)座談会が興味深かった。
- アカデミズム内で起こっている女性の問題について、女性だけで集まるのではなくて、男性の失言を前提にしてでも議論していくというのが面白かった。
- こういうジェンダー関係の読書会をやってると言うと、異性である男性はそもそもジェンダーに無関心だったり、「僕達は入っていけない領域だから女性だけで頑張って」という反応を受けることが経験上多かった。でも、ジェンダーをタブー視したり、誰かのものというのではなくて、もっと話し合わなければならない問題だと思う。
- 前回、『生理用品の歴史』(第23回読書会参照)のあと、生理休暇について日経新聞が取り上げた記事をメンバーのグループLINEでも紹介させてもらった。男性側も、「なぜ生理休暇が必要なのか」を理解して話しやすい環境を作ることが大切とあった。社会で生きていくうえで不便なことを男女ともに共有していくことで、男性も体調不良のときに休みやすくなるのではないか。
- 女性が理不尽な立場に置かれるのは構造側の問題。ジェンダーを学んでいくうえでこうした考えは大切なんじゃないかと思った。
- こういう座談会は珍しい。
- 所々「ん?」と思うところはあるけど、男性側も問題点を自分なりに理解・解決していこうとする姿勢は一歩前進なのではないかと思う。
- 体験談を反省しつつエピソードを語るところが興味深い。自分の失敗をシェアして学んでいく機会ってあまりない。リアリティがある。すぐに解決するのは難しいけれどこうした経験談を共有することは大切だと思う。
- 構造の問題。今回出てきた「歴史学」の分野はすぐに研究が利益(お金)に繋がるわけではない。法学や理系の分野とは違う。歴史学って難しいんだなと思った。資本主義が関わってくる。資本主義をどう解決していくか。近代化とは誰かを犠牲にして発展してきた歴史でもある。そこにも関わってくる。
- フィジーに旅行した際、かつてそこはイギリス植民地になったことがあって、インド人奴隷を入植させたという歴史があるのを知った。現在でも、インド系フィジー人は英語圏にあるインドコミュニティに移住してしまう。そうなるとフィジーの歴史が残らない。歴史が残っているって本当に大事だと思う。フィジーの歴史映画を作ろうと思ってもできない。歴史は積み重ねていかないと。断絶があるとなくなってしまう。引き継がれるべきものが引き継がれない。せっかく日本にはそうした「歴史」があるのでもったいない。一方先ほど例に出したようなフィジーなどでは自国の歴史にまでお金を注げない。それよりインフラが先に…と目先のもの・ことが優先されることになる。
- (研究が利益・お金に直結、重要視される話を受けて)仕事をしているとそれはよく分かる。もちろん、会社という組織に属している以上、利益を求めなければいけないことはよく分かっているけど、もう少し長い目(中長期的な視点で)物事を見て、より良いモノが生み出されれば良いなとは思う。
- 企業イメージにも関わることだから今後もっと重要な話題になっていくのではないかと思う。
- 選書者の感想
- 今回紹介した書籍について皆さんが深く読んでいただいたようで感謝。
- 座談会の箇所でキャリア形成のことが出てきた。そこではここ最近、アカデミアの就活でよく出てくるJREC-IN女性限定公募について記載があった。座談会のところにもあったけど、女性限定公募が必要なのかというコミュニケーションが歴史学・人文学の界隈であっても、共有されていない。よくある逆差別の議論に引きずられてしまう懸念がこの書籍でも書かれていた。(男女間で採用の比率に差が出てくるといった)理由があるから女性限定公募が出てくるのに、それを逆差別の議論に持ってくる。背景を学者内できちんと共有しておかないといけないと思う。これから就職する男性研究者の間でもコミュニケーションをとっていかないといけないと思う。今回、自分はアカデミアの就職を行って職を得られたけれど、その中で要らぬ分断を招いてはいけないと自覚した。これからこの問題についてどうしたらいいのか、今回の本を読みながら、ジェンダーギャップを解消するために自分自身はどうしたらいいか、身につまされた。
- 先程の感想で出てきた資本主義と「歴史学」の関係の話はとても大事な観点だと思う。資本主義とレイシズム、セクシズムが密接に結びついていると思う。かなり分かるなあという感じで聞いていた。儲かるためには入り口をきちんとしなければいけない。(歴史学含め)人文学は金にはならない。でも入り口のところで、人々の教養を豊かにするだけでなく、なにか起きたときの知恵になるものという考えを伝えていくのは大切ではないか。子どもに科学教室みたいな感じで歴史教室をやってみるというのも大事になってくるのではないか。子どもや親御さんを通じて。経済的な感覚を学者はやっていかなければならない。
読書会中に紹介された本やサイト
オリジナルサブタイトル
※読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。
- 「分断から連帯へ―対話と理解から『ジェンダー』」を考える(kimiko)
- 「キャリア問題とジェンダー」(midori)
- 「開かれた学問にするために」(berner)
- 「私と歴史アカデミア 影のさす向こう側へ」(ノビツムリ)
- 「アカデミアから男女平等を始めよう」(アントニン)
- 「歴史学における女性差別」(azusachka)
概要
- 開催日:2023年4月
- 選書担当:アントニン
- 議事録作成:Kimiko、アズシク
- 標題作成:Kimiko (Special Thanks to midori and アントニン)